製造業・従業員20名規模・大阪のお客様です。固定電話のリース満了をきっかけに、クラウドPBXの比較・検証・選定をご支援しました。7サービスを比べ、内線21件をスマホとPC中心に移しつつ、IP電話機は7台だけ残す構成で導入しています。
お客様の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 業種 | 製造業 |
| 従業員規模 | 約20名(本社+支店2) |
| エリア | 大阪 |
| 支援内容 | クラウドPBXの比較・検証・見積精査・導入計画(Microsoft 365移行支援と並行) |
| 時期 | 2026年1月〜9月(月1回の定例) |
クラウドPBXとは
PBXは、代表番号にかかってきた電話を各内線に振り分けている交換機のことです。従来はオフィスの片隅に機械を置き、そこから電話機まで配線していました。クラウドPBXは、この交換機の役割をインターネット上のサービスに置き換えたものです。
機械がなくなるぶん、電話機の代わりにパソコンやスマートフォンのアプリでも電話を受けられます。事務所に居なくても代表番号で発着信でき、社員同士の内線通話も場所を選びません。
中小企業で効いてくるのは、主に次の4点です。
- 機器の保守がなくなる:故障のたびに業者を呼ぶ、部品の供給が終わって買い替えを迫られる、といったことがなくなります
- 人数の増減に強い:内線を増やすのは契約の追加だけで、配線工事は発生しません
- 拠点をまたいで内線が使える:本社と支店、在宅勤務でも同じ内線番号でつながります
- 通話をデータとして扱える:自動録音、文字起こし、AI要約、迷惑電話の自動ブロックなど。ただしどこまで標準でできるかはサービスごとに大きく違います
一方で、すべてが上位互換というわけではありません。今回の案件でも、緊急通報(110・119)に対応していないサービスが多いこと、FAXやアナログ機器の扱いが製品ごとに違うことが、選定の分かれ目になりました。「電話をクラウドにするかどうか」ではなく「どの製品なら自社の使い方が成立するか」が本当の論点です。

1. 課題
- 固定電話のリース契約が10月末で切れる。 延長するか、この機に見直すかを8月末までに決める必要がありました。既存PBXも老朽化しており、部品と保守サポートの残り期間が読めない状態でした。
- 留守番アナウンスを、昼休み・長期連休・年末年始のたびに録音し直していた。 事務の方の定例作業になっていました。
- 優先したい機能は2つだけ、と最初に言い切られた。 着信が重なったときの順番待ち(待ち子機能)と、通話内容のAIメモです。この2つが選定の軸になりました。
- 固定電話の全廃には不安がある。 PCを立ち上げていない時間帯の受電が残るためです。

2. 先に確かめたこと
比較表を作る前に、「そもそも試せるのか」を確認しました。ここで前提が3つ崩れています。
トライアルでは本番と同じ条件を再現できません。 各社のお試し条件を並べたところ、外線の発着信は050番号のみ、同時通話は2ch、同時ログインは1端末1内線、といった制約がありました。代表番号に複数着信が重なる状況こそ検証したい部分なのに、そこはお試しでは再現できません。そこで「テストで確かめること」と「メーカーに確認すること」を先に分け、後者は書面で回答をもらう形にしました。
1社は、優先機能の片方がまだ実装前でした。 AI文字起こしが開発中で、試験時点では触れません。実装予定時期を確認したうえで、比較表には「未実装」と明記して扱いました。
IP電話機は有線接続のみでした。 Wi-Fiでは使えず、ルーターに挿さっているLANケーブルにハブをかませる必要があります。導入当日ではなく、この段階で分かったことが大きかった点です。
なお、当初は「FAX番号は引き継げない」前提で進めていましたが、検討の途中で採用候補にFAX送受信機能がリリースされ、テストで移行可能と確認できました。要件は固定せず、途中で確かめ直しています。
3. 何を比べ、何を選ばなかったか
最初の分岐は「グループウェアのチャットツールに統合するタイプか、独立したPBXか」です。統合型はアプリが1つで済み、管理も一本化できます。一方で電話用のライセンスが1IDごとに別途必要になり、待ち子機能もAIメモも標準では手に入りません。
比較シートは5カテゴリ・23項目で作りました。
- 導入条件:最低契約ID数/既存PBXとの併用可否/回線工事の要否/開通までの日数
- 基本機能:0AB-J・050番号/番号ポータビリティ/内線・外線転送/通話録音/IVR/文字起こし・AI要約/迷惑電話フィルタ
- 端末:PC・スマホ・タブレット/IP電話機/固定電話・アナログ機器/BYOD(個人スマホの内線化)
- コスト構造:料金体系/月額総額/通話料
- 信頼性・サポート:セキュリティ基準/サポート体制/通話品質・接続方式/VPN・閉域網接続/緊急通報
23項目を埋めて分かったのは、独立型5サービスで差がついたのは9項目だけということでした。
| 比較項目 | 独立型5サービスの結果 | 判断への効き方 |
|---|---|---|
| 番号ポータビリティ | 全社対応 | なし |
| 0AB-J・050番号/内線外線転送/通話録音/IVR/回線工事 | 全社対応(工事は全社不要) | なし |
| 文字起こし・AI要約 | 標準搭載2社/一部1社/非対応2社 | 大(優先機能) |
| 迷惑電話フィルタ | 1社のみ搭載 | 大 |
| IP電話機・アナログ機器 | 1社が非対応(スマホ・PCのみ) | 大 |
| 最低契約ID数 | 1IDから/10IDパック/20名から | 中 |
| 既存PBXとの併用 | 1社のみ可 | 中 |
| 緊急通報(110/119) | ほぼ非対応 | 中 |
| VPN・閉域網接続 | 1社のみ可 | 小 |
番号ポータビリティは、全社が対応していました。 電話の乗り換えで最初に心配される項目ですが、独立型のクラウドPBXでは差がつきません。それでも表からは外していません。「確認した結果、差がなかった」と「確認していない」は別物だからです。 なお差がついたのはFAX側で、独立系のクラウドFAXには今の番号を引き継げないものが複数あり、これが「電話とFAXを同じサービスに寄せる」判断につながりました。
緊急通報(110・119)は、独立型のほとんどが非対応でした。 工場を持つ会社なので、この1行が固定電話を残す判断の裏付けになっています。
このお客様は優先機能が2つとも「電話側の機能」だったため、独立型を軸に、統合型は費用比較の対象として残しました。
| タイプ | サービス | 待ち子機能 | AI会話メモ | 判断 |
|---|---|---|---|---|
| 独立型 | 迷惑電話DB搭載型 | 標準搭載 | 標準搭載 | 採用 |
| 独立型 | AI特化型 | 上位プランで対応 | 業界最高水準 | 見送り |
| 独立型 | 通話履歴管理型 | 標準搭載 | 検討時点で未実装 | 見送り |
| 独立型 | 低価格定額型 | 非対応 | オプション | 見送り |
| 独立型 | 既存PBX併存型 | 非対応 | 非対応 | 見送り |
| 統合型 | 大手キャリア2社 | チャットツール側に依存 | オプション(1名ごと) | 見送り |
低価格定額型と既存PBX併存型は、「待ち子機能がない」ため料金を見る前に外れました。 着信が重なると話中音になる仕様で、代表電話の受け方そのものが変わってしまいます。
AI特化型は、機能では最上位でした。 通話を切った瞬間に全文書き起こしと要約が終わっています。ただし基本料金が1人ずつかかるため20名全員では膨らみやすく、海外製でサポート情報が追いにくい点も含めて、この会社の規模では持て余すと判断しました。
統合型は一度復活し、もう一度見送っています。 7月に大手キャリアの提案を再検討しましたが、AIメモにあたる機能が1名ごとの追加オプションで、優先機能を満たそうとすると結局割高になりました。統合型は比較の軸そのものが違うため別シート(19項目)を作っており、そこで「必要なライセンスが3種類」「認定端末しか使えない」「管理者権限の承諾手続きが要る」「FAXは別回線」といった条件が並びます。費用より先に、前提条件の多さが判断材料になりました。
採用したのは、迷惑電話データベースを標準搭載した独立型です。比較した中では1名あたりの単価が高い方でしたが、営業電話の自動ブロックとAI要約が標準で、事務の受電対応の手間が減る分で回収できると判断しています。「安いから」ではなく「高い理由を説明できるから」選んだ、という整理をお客様と共有しました。
4. 実際の作業
6つのステップで進めました。

- メーカーのピックアップ。 数十社から数社に絞り込みます。ここは弊社側の作業です。
- 選定基準を先に固定。 独立型は5カテゴリ23項目、統合型は前提条件が増えるため別シートで19項目。テストの前に基準を作るのが順番です。 先に触ってしまうと、最初に使ったサービスの印象がそのまま基準になってしまいます。
- 基準に沿ってメーカーへ確認。 テストで再現できない項目を、ここで文書で潰します。
- テストは3サービス、1社ずつ順番に。 評価は12項目を4段階で採点します。「4=迷わず設定できる/3=少し確認すればできる/2=マニュアルがないと難しい/1=かなり複雑」というように、点数の意味を先に文章で定義してから触っていただきました。採点するのはお客様なので、ここを決めずに始めると人によって基準がぶれます。
- 見積の精査。 内線21件の内訳(PC利用9件・スマホ利用5件・IP電話機7件)と、見積書の数量を1件ずつ突き合わせています。電話機の台数とライセンス数がずれたまま契約に進む事故を防ぐ工程です。
- メーカーとの打合せ、導入。
検討が8か月にわたったため、毎回の定例資料に「◯月にこう決めた」を1枚で積み上げました。 前回の判断が毎回見えるので、担当者が変わっても議論が振り出しに戻りません。実際、統合型が7月に再浮上したときも、2月・3月にどういう理由で外したかをその場で参照できました。
5. 導入したもの/見送ったもの
導入したもの
- 独立型クラウドPBX(内線21件)
- IP電話機7台(PCを立ち上げていない時間帯の受電用)
- FAX番号の引き継ぎ
見送ったもの
- MSTeamsチャットツール統合型(2月・7月の2回検討)
- AI特化型/低価格定額型/既存PBX併存型
- 固定電話の全廃(7台は残す判断)
- FAXの編集機能。2月時点では必須要件でしたが、7月に運用を確認し直したところ、受信FAXへの直接書き込みはPDF注釈かメール返信で代替できると分かり、要件から外しました
6. 変わったこと
- 物理PBXの保守と、故障時の業者手配が不要になりました
- 人の増減に、契約の追加・削除だけで対応できます
- 留守番アナウンスは、録音し直しから管理画面での設定に変わりました
- 営業電話は登録済みデータベースで自動ブロックされます
- 通話内容の自動テキスト化と要約が標準で使えます
受電対応の工数がどれだけ減ったかは、運用が落ち着いた段階で測定します。
7. 残っている宿題
- IP電話機7台の機種確定。 見積時点では7台すべてが上位機種でした。設置場所ごとに本当に上位機種が必要かを見直しており、コードレス型への切り替えも含めて検討中です
- 代表番号の同時通話ch数。 現行PBXの同時着信の実績を確認したうえで確定します
- 電話帳の集約。 社員・取引先の登録範囲、更新担当、項目定義を決めます
- クラウドFAXの一元化テスト
- 受電対応の工数削減の効果測定
8. 同じ課題をお持ちの方へ
固定電話のリース満了は、電話まわりを見直せる数少ないタイミングです。ただし、契約満了の3か月前から動き始めると、テスト期間が取れずに「今と同じものを延長する」以外の選択肢が消えます。この案件では9か月前から着手し、テストに3サービス分の時間を確保できました。
弊社はメーカーでも販売代理店でもないため、特定の製品を売らず、候補を絞る基準づくりからご一緒します。基準に届かなかったものも、その理由まで含めてお渡しします。
- 電話・グループウェア・セキュリティをまとめて整理したい方 → Microsoft 365 導入・活用支援
- 見積を比較できる形に整える進め方 → ベンダーの見積書を、比較できる形に。ネットワーク機器リプレース支援
- 同じ規模での基盤移行 → 【建設業】個人アカウントのOfficeで動いていた工事管理表を、Microsoft 365へ
ご相談は無料です。まずは現在の契約内容と満了時期をお聞かせください。

